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吾輩はチビである

4月23日(月)

僕の飼い主は元々はタイ人の優しいお母さんだったんだけど、理由があって去年タイ人のお姉さんのところに貰われて来た。

僕には日本人のお父さんがいて、僕はそのお父さんに連れられて、5か月前に今の家に引っ越してきた。本当は、その日本人が僕の飼い主みたいなものだけど、タイ人のお姉さんは可愛いし、ちゃんと僕の面倒を見てくれるので「誰が飼い主なの?」と聞かれれば、今では「タイ人の若い女の人」と答えてしまうだろうな。

自己紹介しておくと、僕はチビという名前の犬で、種類は?と問われれば、いろいろの答え方があるのだが、端的に言うと雑種である。生まれはタイ王国チェンマイ県サンカムぺーン郡というところで、生まれて3か月くらいして親から引き離されて、タック県というところに貰われて行くはずだった。でも僕は遠い所へ行くのが厭だったから、途中で逃げ出した。その逃げ出した先がサラピー郡というところで、スーパーハイウエーというバンコクに通じている国道11号線の傍の小さな住宅街に迷い込んでしまった。

そこに「キー」という名前の色の黒い野良犬が、まるでボスのように、偉そうにのさばっていた。僕の姿を見つけるや否や「コラッ!お前はどこから来たっ!ここに勝手に入るのは許さない!」と叫んで僕を追いかけてきた。僕は犬に追いかけられた経験がなかったので、びっくりしてありったけの足の力で駆け出して逃げた。

たまたま200メートルくらい走ったところに門が開けっ放しになっている家があった。断る暇もなかったのでそのまま庭の中に逃げ込んだら、中学生くらいの男の子が庭でサッカーボールを1人で蹴っているところだった。その男の子は僕の姿を見つけると、「何しに来たの?」と何食わぬ顔で聞いた。

「怖い野良犬に追いかけられているので助けてちょうだい」と言いたかったんだけど、よく考えてみたら僕は犬なので人間の言葉が喋れないことを思い出した。ところが不思議なことに、その男の子は僕の気持ちが分かるみたいで、サッカーボールを放ったらかして僕を抱きあげてくれた。

「お前は迷子の犬みたいだな。この辺で見かけたことがないからな。」

「そうだよ、僕の生まれはサンカムぺーンだ。ちょっとだけでいいから匿ってくれないかな」

そう犬語で言ったら、その男の子はまるで犬の言葉が理解できるみたいで、すぐに家の中へ入れてくれたのさ。そして中にいたタイ人の女の人と日本人のおじさんに向かってこう言ったから、僕はびっくりした。

「この犬、キーに追いかけられて家に入ってきたんだ。僕が面倒見るから飼ってもいい?」

タイ人の女の人と日本人のおじさんはお互いに顔を見合わせて、どちらが先に口を開いたのか僕には判然としなかったけど、2人はほとんど同時に、

「かわいい犬だね。もちろん飼ってもいいよ」

そう言って、2人は奪い合うようにして僕を抱いてくれたんだ。きっと2人とも犬好きな人間に違いないと僕は確信して、「ラッキー!」と心の中で叫んでいた。後でわかったんだけど、その家には「ラッキー」という名前の大きな白い犬がいたのだった。しかも、ラッキーは僕があこがれている雌犬だったので、恋に落ちるのにさほど時間はかからなかったというわけさ。

それからその家ではいろんなことがあったんだけど、細かい話は全部省略して要点だけ言うと、僕を最初に見つけて抱き上げてくれた男の子は結局のところ僕の面倒はあまり見てくれなかった。そのかわり、その家のタイ人のお母さんと日本人のお父さんが僕を我が子のように可愛がってくれたので、僕はまるでどこかの王子様にでもなったような幸せな毎日を過ごしていたんだ。

途中で、チワワという種類の小さな白い犬がその家に貰われてきて、ときどき飼い主のお母さんとお父さんに甘えようとするので、いかに心の広い僕でも時々頭に来てチワワと喧嘩することもあった。でも、雌犬のラッキーは、その「レックレック」とかいう名前の小さなチワワよりも雑種の僕と仲良くしてくれたんだ。

残念ながらラッキーは背が高くて体が大きくて、僕はチワワのレックレックほどはチビではなかったけど、如何せん大きさが違いすぎるので、いくら本気で恋人になってもらいたくても、僕にはどうすることもできなかったんだ。

その家に入り込んで2年くらい経ったあるとき、ぼくの大好きなお母さんがどうやら重い病気だったらしくてずっと寝たきりになってしまったんだ。僕はいつものように可愛がってもらいたくて、お母さんの傍を離れないようにしていたんだけど、いろんな人が入れ代わり立ち代わり家にやってきて、僕とお母さんを引き離した。

お父さんだけは、お母さんと僕が一緒にいることを許してくれたんだけど、あるとき急にお母さんがいなくなってしまった。優しいお母さんがどこへ行ってしまったんだろうと思って、でもそのうち元気になって戻ってきてくれると信じて、毎日玄関の前でずっと待つことにしたんだ。

ところがいつまで待ってもお母さんは帰ってこなかった。それでも僕はお母さんがひょっこり帰ってくるような気がして、夜お父さんと一緒のベッドで寝ていても、途中で「ワンワン」と吠えて外に出してもらった。そしてやっぱり玄関の前でお母さんの帰りを待っていたんだ。

お母さんが家を出て行ってから何か月か経ったある日のこと、お父さんが僕とチワワのレックレックを珍しく車に乗せてどこかへ連れて行ってくれた。そして着いたのが今の家だった。

前の家と違って庭はずいぶんと狭かったし、家の中も前の家の半分くらいの広さしかなかったんだけど、中に階段というものがあって、上へあがって行くことができた。階段なんてこれまで見たことがなかったので、珍しくて面白くて何回も何回も上ったり下りたりして遊ぶのが好きになった。

新しい家にはお母さんはいなかったけど、若いタイ人の女の人がいて、いつも2階の部屋でお父さんと一緒に寝てるようだった。だから最初はお父さんに会いたくて明け方になると2階へ上がって行ったんだけど、そのうちお父さんではなくてお姉さんがドアを開けてくれるようになったので、だんだんお姉さんが好きになった。

そのお姉さんは毎日朝と夕方においしいご飯を作っれくれたし、僕が甘えてお姉さんの座っているソファーにちょこんと乗ると、いつも撫でてくれるようになった。そうしていると、お姉さんこそ新しいお母さんのように思えてきて、ますます好きになっていく気持ちを抑えられなくなっていった。

僕は前の家のお母さんのことを忘れることはできないけど、今の若いお母さんも優しくしてくれるので2人ともどっこいどっこいのような気がしてきた。もし今、前のお母さんが目の前に帰ってきたら、どっちに甘えたらいいのか分からない。うまい具合に2人に甘えることが許されるのなら、僕は絶対そうしようと思っている。そんなことを考えていたら、ある日突然「ただいま」と言って、前のお母さんが帰ってきてくれるような気がする。

一緒にいるチワワのレックレックはどんな気持ちでいるのだろうか?一度聞いてみたいような気もするけど、何だか前のお母さんのことは忘れてしまっているような感じにも見えるから、聞かない方がいいのかもしれない。

お父さんも相変わらず僕のことを可愛がってくれてるけど、前の家と違って、僕がベッドルームに入ろうとすると「ダメダメ」と大きな声で怒鳴って入れてくれない。その点だけは前と変わってしまったので、お父さんのことはそれなりに好きだけど、正直言うと、前ほどではなくなっている。その分、新しいお母さんが好きになって、いつもくっ付いていたいと思ってるんだということを、お父さんはちゃんと理解してるかな?

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一人称

暫く、ブログ更新がないので気にしてましたが、
この一人称物語をしたためていたのですね。
当時のブログでは、主人公のチビ君はラッキーの追っかけだった記憶があり、遠方にもらわれる予定だったが、飼い主のタイ人に前妻が頼んで、譲り受けたとの記憶がありますが、今は幸福で何よりです。年齢は推測ですが7-8歳でしょうか?

Re: 一人称

団塊オヤジさん、今晩は。

> この一人称物語をしたためていたのですね。

今日、もうブログをやめようかと思ったのですが、急にチビの目で見た僕たちの生活を描いてみたらどうなんだろうかと。ひょっとして犬の目線で書いたらどんな風に見えるだろうかとなったわけです。

> 年齢は推測ですが7-8歳でしょうか?

ついこの間、年齢を慎重に推測したところ、4歳以上だろうということはわかりました。多分、5歳になるかならないかだと思います。
プロフィール

Niyom

Author:Niyom
身を削って過ごした30余年のサラリーマン生活にピリオド。ここチェンマイに移り住んでからも、楽しいこと辛いこと、いろいろとありました。でも、それは全部過去のこと。人生、どこまでリセットできるものなのか、自ら実験台になって生きています。

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