FC2ブログ

吾輩はチビである(2)

4月25日(水)

お母さんは昨日、「キャディーの飲み会がある」と言ってお昼ごろに出かけた。ときどきビールと焼き魚を持って家に遊びに来るキャディーのお姉さんがバイクで迎えに来た。

そのお姉さんは7歳の男の子をいつも連れていて、昨日もバイクの後ろにちょこんと乗っていた。ついでに言うと、そのお姉さんには決まった恋人がいないようで、うちへ来ると「誰かいい日本人を紹介してよ」とお母さんに頼んでいる。

お父さんの方を見ると、「また酔っ払って帰ってくるに違いない」と顔に描いてあった。でもそんなことは口に出さずに、

「何時に帰ってくるの?」
とだけ聞いた。

そしたらお母さんは
「3時か4時には帰ります。晩御飯は家で食べますから、あなたが豚のステーキを焼いてくださいね」
と答えた。

僕はそんなに早く帰ってくるとはほとんど信用できないと思った。そして、そう答えたことが大変な結果になってしまうことは、僕には実は予感があったのだ。

お父さんが一人になってすることと言えば、家でビールを飲むことぐらいしかない。昨日も日本人の友達から貰ったばかりの、日清のチキンラーメンよりは遥かに高級そうなインスタントラーメンを作って、それを肴にビールを1本開けた。テーブルは僕の目線よりも高いので、ラーメンの中身はよくは分からなかったけれど、ワカメとネギを入れたようだ。肉とか魚とか卵は入っていなかった。それは臭いでわかった。

お母さんが「3時か4時に帰ります」と、僕から見れば出まかせのように言ったものだから、糞まじめなお父さんはそれを信じていたのかもしれない。午後4時を少し過ぎたころ、お父さんは2階のパソコンの前に置いてあったケータイをテーブルに持ってきてLINEを始めた。どうやら、お母さんが何時に帰るのか聞いているようだった。さすがに鼻のいい僕でも何をやり取りしてるかわからないので、ちょっと失礼してテーブルの椅子にちょこんと乗ってケータイの画面をお父さんの横から覗き込んだ。

ケータイの画面を見ると、お母さんは「もうすぐ帰ります」と返事していた。「もうすぐ」という言葉はとても便利な言葉だけど、糞まじめなお父さんにこれを使うと悲劇が生まれることもあるんじゃないかと僕は心配になってきた。

「もうすぐ」は普通は5分でも、30分でも、1時間でも使える。きっとお父さんは1時間以内で帰ってくるという風に考えたんだと思う。日本人だったらそれでいいけど、タイ人の場合は2時間でも3時間でも「もうすぐ」に入ることは、人間じゃないけどタイで生まれ育った僕としては常識として理解している。それがタイの「文化」だということは犬の僕でもわかる。でもお父さんの場合は、きっと頭ではそのことを分かってるんだろうけど、感情が理性を凌駕してしまうことがよくあるようなのだ。昨日の場合も、きっと感情の方が暴走してしまったのに違いないと思う。

お父さんはよく我慢して6時まで大人しくして待っていた。お母さんが出かけてから大体5時間半が経っていたから、普通の飲み会なら、とっくにお開きになっているとお父さんは考えたようだ。つまり、この時間になっても帰ってこないのは、一次会ではすまなくて、ゴルフ場でのパーティーのあと、どこかお店へ移動したに違いないとお父さんは推測したはずだ。お母さんは家で晩御飯を食べると言っただけでなく、お父さんに豚のステーキを焼いてくれとまで言って出かけて行ったのだ。糞まじめなお父さんは6時を過ぎたから夕食の支度に取りかかる時間だと考えたに違いない。だから、またLINEを使った。

「もう6時を過ぎたけど、いつ帰ってくるの?晩御飯は家で食べるんでしょ?」

僕としては、お母さんが3時か4時に帰ると言って出かけたんだから、6時までおとなしく待っていたお父さんを責めるつもりはない。でも同時に、お母さんはタイ人だから、本当に4時に帰るつもりでいて、実際は6時を過ぎたとしても別段問題があるとは思わない。だって、ここはタイだし、お母さんはタイ人だし、しかもキャディー仲間の飲み会だということはどう考えても嘘ではないのだから、少し遅れたとしてもお母さんを責めるつもりはない。でも、お父さんの立場に立てば、お昼過ぎからずっと一人で待ってるんだから、「いつ帰ってくるの?」ともう一度聞かれたら、こんどこそ正直に「あと1時間以内に帰ります」とすぐに返事をすべきだったと思う。ついでに「愛してます」と書き添えるべきだと、犬の僕でも思うのだ。

ところが・・・お母さんからの返事がなかった。そりゃお父さんが更に1時間も待てばよかったのかもしれないが、お父さんの感情は沸点に達する寸前だったのだ。

「お父さんは遊びに行きますよ。それでもいいですか?」

「もう飽き飽きしてきたよ。それに一人でいて淋しいよ」

「お父さんは家にいないからね。バイバイ」

これだけのことをお父さんが書いたのに、お母さんからの返事はなかった。お父さんは僕とチワワのレックレックを庭に出してから、車に乗ってどこかへ出かけてしまった。どうせお母さんはしばらく帰ってこないだろうから、お父さんがどこか外でご飯を食べようとしてるんだろうなと考えた。僕たちのご飯をまだ用意してくれてなかったから、そんなに遅くならないに違いない。お父さんとお母さんのどちらが先に帰ってくるだろうかと思いながら、日が落ちてきてだんだん夕闇が迫ってくる空を眺めながら待つことにした。

でも、お父さんが最後に「バイバイ」という言葉を使ったことは、妙に気になっていた。


にほんブログ村 海外生活ブログ タイ情報へ
にほんブログ村   
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Niyom

Author:Niyom
身を削って過ごした30余年のサラリーマン生活にピリオド。ここチェンマイに移り住んでからも、楽しいこと辛いこと、いろいろとありました。でも、それは全部過去のこと。人生、どこまでリセットできるものなのか、自ら実験台になって生きています。

最新記事
最新コメント
フリーエリア
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
QRコード
QR