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車内の会話が筒抜けだった

新しい女性のTにアパートの一室を借りてあげてから1週間くらい後の出来事だった。その日もTが手料理を作ってくれると言うので、夕方4時ごろ車で10分ほどのところにある大きな市場へ食材を買いに出た。

Tは彼女と違ってよく喋るし、声も大きい。そもそも体格が僕よりも少し大きい。毎日のように運動しているので筋肉質で、力もある。それはどうでもいいが、とにかくよく喋る女なのだ。だから僕の方もついつい喋ってしまう。

車の中での会話は、僕が全部覚えているわけないが、以前のマッサージのことも話題になった。あのとき、僕は「1時間300バーツあげるよ」と言ったのだが、Tはそれを覚えていて、「あのモーテルでのマッサージ代、まだ300バーツもらってませんよ」と冗談を言った。僕は「あれは1時間じゃなくて、厳密には40分くらいだから、300は無理だな。せいぜい200だな」というようなやりとりを確かにした。

妻のことも話題にした記憶がある。「彼女はほかの人に僕のことを話すとき、『彼』とか、『主人』とか言わずに、『おじさん(タイ語でクンルン)』って呼ぶんだよ。いくらなんでも妻に『おじさん』って言われて気分がいいわけないよね・・・」

するとTは、「ワタシたちは何て呼び合えばいいかしら?」と聞くので、「Tとか、〇〇(僕のニックネーム)とか、名前で呼ぶのが一番いいんじゃない」と答えた。するとTは「ティーラックでもいいかしら?」と言った。“ティーラック”とは夫婦や恋人どうしが呼び合う時に使う「愛する人」という意味だ。

車内での2人の会話は途切れることなく続き、やがて市場に着いたのだった。そしてその日の夜。アパートで食事して家に帰ったのが午後9時ごろ。ところが彼女はいつもと違って、僕を待ち構えていた。

その日までは、僕がどこへ出掛けようと、何時に帰ろうと、彼女はまったく関心がないようだった。そもそも、仕事の後、彼女も夕方友達と外で食事したり飲んだりして、帰りはだいたい8時を過ぎるのだから、いい勝負だったのだ。

「あなた、ちょっとここへきて座って頂戴!」

彼女の目が、ただならぬ気配を見せていた。血走っているようだった。

「あなたはTという名前の愛人を作ったんですね!全部わかってるんですよ。モーテルに行ってセックスしたでしょ!1回300バーツでしてるんでしょ!Tはあなたのことを“ティーラック”って呼んでるんでしょ・・・」

数時間前に車内でした会話を、彼女はオウム返しのように口に出した。はじめに一番驚いたのは、彼女がTの名前を知っていたことだ。モーテルでのマッサージをセックスと誤解していたけれど、それは大した間違いではない。

僕はしらばっくれた。なぜ会話の内容を知っているのか、不思議で仕方なかったが、とにかく全否定するしかない。彼女が何を考えているのか、分からない限りは容疑を認めるわけにはいかない。

「Tって、いったい誰のこと?」

「アナタ、どうして嘘つくんですか!!!本当のことを言ってください!!!全部聞いたんですよ、LINEで!」

彼女はカラクリを明確にした。彼女が言うには、午後4時ごろに僕にLINEの音声通話をかけた。いくらLINEで書いても返答が来ないので、「今日も晩御飯は外で食べてくるんですか?」と直接聞くつもりだったという。ところが僕の返事がなかったのに、男女の会話が明瞭に聞こえてきたのだという。

「アナタ、ケータイをどこに置いてたんですか?車の中でしょ?そして多分、鞄に入っていたでしょ。でも全部聞こえてたんです。とっさに録音しようかと思ったんですが、それはできませんでした。けど、ワタシ、全部覚えてます。だから、ウソを言わないで!!!」

彼女は完全に涙顔になっていた。僕はすぐケータイを鞄から取り出してLINEの着信履歴をチェックした。そうしたら、確かに4時頃に彼女から音声通話の着信があり、20分近く通話していた形跡が残っていた。僕は彼女からの着信にまったく気づかなかった。おそらく、車に乗るときの何かの弾みでLINEの着信を受けてしまったにちがいない。それを知らずに車を走らせ、Tと呑気に冗談交じりの会話をしていたというわけだ。

一つ疑問があるとすれば、Tとの会話は、その時もタイ語半分、英語半分だったはずだ。そうだとすると、2人の会話の半分は理解できなかったはずだ。その割には、肝心の部分を彼女が記憶しているような気がした。女の記憶力、女の勘はやはりすごいものがある。

「ワタシはアナタの妻です!妻には権利があります!Tにどんな権利があるんですか?ハッキリ言ってください。ワタシはアナタの妻なんですよ!!!」

「そんなに興奮しているなら、僕はアナタと今は話し合うことができないよ・・・」

暫くして彼女は、「もう大丈夫」と言って涙をぬぐい、今度は打って変わって、愛おしそうな目で僕を見つめた。

とにかくその日、彼女は僕に世間でいう“愛人”ができていて、その名前がTであることを知ってしまった。Tとはじめて会ってから3週間以上が経った、7月下旬の出来事だった。

(8月6日、11時50分)


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No title

こんにちは
面白い展開になっていますね(笑)

刺されないよう(配偶者&愛人)どう収めるのか興味津々です
すいません他人の恋事は面白いです(笑)

No title

LINEは気を付けないといけませんね!!
スマホは分からない機能ばかりで正直邪魔くさいです。

No title

図らずもLINEの着信を受けていたというのは衝撃的でした。
興味本位で申し訳ないんですが、奥様との営みは全くなくなったということなのでしょうか?

Re: No title

おやぢさん、こんにちは

> 刺されないよう(配偶者&愛人)どう収めるのか

このまま収まらないで、ズルズル行く可能性もなきにしもあらずです。タイ的に言うと、それもよくあることらしいですから。

Re: No title

alfaさん、こんにちは

> スマホは分からない機能ばかり

しかし、今回のように知らず知らずに通話を受けてしまうというのは、単なる人為的なミスです。行いが悪いという事でしょうね。


Re: No title

シュールさん こんにちは

> 奥様との営みは全くなくなったということなのでしょうか?

回数は減ったかもしれませんね。でも総和としては、随分と増えてるでしょうか。
プロフィール

Niyom

Author:Niyom
2012年、60歳でチェンマイへ移住。2017年にタイ人の妻を病気で亡くした後、愛人だった若いタイ人女性と再婚、前妻が可愛がっていた小さな犬2匹も一緒に暮らしている。

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