FC2ブログ

小さな嘘、大きな嘘(2)

1月27日(土)

買い物を終えて帰宅すると、彼女はリビングから外に出てきて僕を迎えてくれた。こういうことはめったにない。普段は僕の車が着いてもソファーに座ったままケータイをいじっていて、見向きもしない。昨日は彼女の何もかもがいつもと違った。僕の神経を逆なでしないようにしている。何しろ大切なスポンサーだから。

「ソーダがないので買ってきて」と彼女は僕に頼んだけど、気を利かせてビールも1ケース買ってきた。彼女が喜ぶだろうと思ったからそうしたのだ。すると彼女はすぐに冷えていないビールを取り出して、氷と一緒にテーブルに持ってきた。

ビールを2人で酌み交わすや否や、僕はさっそく取り調べに入った。ゆっくり飲んでる場合ではない。

「僕のケータイに入っていた連絡先だけど、どうして叔母さん2人の番号まで隠そうとするのかな?前の彼女は親戚の連絡先は全部教えてくれたよ。」

すると彼女は、即座にメモ用紙に叔母さん2人の電話番号を書いた。今朝、彼女の目の前で消した番号だ。

「親戚はイサーンにもたくさんいるよね。僕は誰も知らないよ。だって、1人も教えてもらってないよ。」

彼女はまた紙に電話番号を書いた。しかし、よくもまあ電話番号を諳んじているもんだ。親戚の番号とはいえ、感心する。一種の特技かもしれない。その割に、僕の番号は全然覚えていない。もちろん、嫌みでそう言ってやった。

「これはイサーンのお姉さんの番号です。お姉さんと言っても、死んだお母さんのお姉さんの娘。」

その番号を僕の携帯に入力すると、LINEも繋がった。見ると、とても綺麗な女性だった。彼女のイサーンの母方の女性はみんな綺麗だ。お姉さんの多くはバンコクに住んでいて、いろいろな仕事をしているが、一人芸能人がいて歌手をしている。その女性もさすがに綺麗だ。多分、彼女が一番普通で、さほど美人という訳ではない。だから、彼女はいつも綺麗になりたがっている。

さて、ここからが本題だった。

「〇〇〇という日本人だけど、今朝の説明は嘘だってわかってるよ。本当はキミの愛人になりたい男なんだろ?」

こういう“取り調べ”では、あるところまで来たらズバズバと行く方がいい。推測していることを相手にぶっつけて、反応を見る方が手っ取り早い。

彼女は口ごもった。自ら、「そうです」と告白しているようなものだ。じっと僕の顔を見つめていた彼女は、やおら声を出した。

「その人には日本に奥さんも子供もいるんですよ。」

これは彼女の失言だ。言わないで黙っていた方がましだった。

「へえ・・・奥さんのいる男は女に興味を持たないんだ。ホントにそう思ってるわけないだろ、キミは。」

これは詳しく書くとややこしくなるので今日はやめておく。彼女はちょっとの間沈黙したあと、今度こそムキになって言った。

「もう終わりにしましょうよ!もういいでしょ。この件はオワリ。これ以上何も言わないで!」

彼女が可哀想になってきた。僕は取り調べの検事でもないのに彼女をジワジワと追いつめている。これは僕の本意ではなかった。彼女に事実を語らせたかっただけだ。そうすれば、その内容が何であれ、僕はOKだった。

「じゃあ、これは終わりにしよう。ところでスポンサーは見つかったの?」

これには少し解説が必要だ。この数日前、彼女が庭で誰かに電話(またはLINEの通話)しているとき、たまたまある言葉が明瞭に聞こえてきた。盗み聞きしようとしたのではない。

「・・・・いまスポンサーを探してるんです・・・」

前後の言葉はまったく聞こえなかった。でも芸能人でもスポーツ選手でもない彼女がスポンサーを探しているとは。それは自分がやりたい商売の資金を出してくれる人を求めていると言う意味にしか取れなかった。

彼女は「スポンサー?それ何のことですか?」と惚けたので、僕はスポンサーの意味や、彼女の場合は商売の資金募集以外はありえないことを滔々と説明してあげた。すると彼女は観念したようだ。初めて自分から説明し始めた。

「あれは私の前からの知り合いの男性と話していたんです。前の恋人でも何でもありません。すごく頭のいい人で、大学院も出てるし、信頼できる人です。それに奥さんもいます。」

前の恋人かどうかなんて僕は全然考えていなかったし、男か女かも知らない。そんなことは聞いてもいない。またまた「奥さんがいる」と言ったのには笑いそうになった。何の関係があるのだろう。「スポンサーになってくれませんか?」とか、「誰かお金を出してくれるいい人がいませんか?」とか、何人もの人に話しているのだろう。例の日本人も、その中の一人かもしれない。もしその男性が彼女に興味を持っているとすれば、一番いいカモかもしれない。

「あなたがスポンサーになってくれるんでしょ?だから、その問題はもういいんです。」

そうこうするうちに、お姉さんがやってきた。夕食の総菜を買ってきてくれたのだ。ちょうどいい時に来てくれた。あまり厳しく追及すると彼女がますます窮地に陥りそうになっていたのだ。

「いま2人で喧嘩してたところ。いや、喧嘩じゃなくて話し合いかな。僕はちょっと上に行ってきます。」

そう言って2階の寝室に上がり、僕は昨日のブログを書き始めたのだった。

しばらくしてお姉さんが帰った後、彼女が寝室にやってきた。大袈裟に言えば、悲壮な顔つきをしていた。

「わたし怖いの。あなたがどっかへ行ってしまいそうで。ねえ、私のこと、まだ愛してくれてますか?」

そう言いながら、僕に抱きついてきた。そういう行動をとる彼女を見るのはまったく初めてだった。一体どうしたんだろう?そんなに僕のことが怖いのだろうか・・・?つい先日、結納のことが問題になったとき、「お金が欲しいんだったら、他の男を探しなさい」と僕が突き放したように口にした言葉が、きっと彼女の中に根深く残っているのに違いない。スポンサーを失うのは、とても怖いことなのだ。

そのあと彼女は何故かベッドに寝転んだ。服を着たままでこんなことは初めてだった。彼女は生理中なので、寝転んでもセックスはしない。本能的に彼女に覆い被さった僕の唇を求めてきた。そして、「ワタシ、怖いの」と何度も言った。お互いに舌を絡ませながら、長い時間そうしていた。

「ワタシのこと、信用できないんでしょ?」

「そうだね・・・・信用してないかもね。でも愛してるよ。それは確かだよ。」

思いっきり抱きしめ合った。そんな風にセックスもしないのに、ベッドの上で服を着たまま抱き合ったことはこれまで一度もなかった。

「ホントはね、僕はセックスするよりも、こうしてる方が好きなんだよ。」

「やっぱり。そうかなと思ったことがあるの。だって、キスが好きでしょ、あなたって。」

「そう、カチアオ(タイ語で男性器のこと)を入れるよりも、本当は好きなんだよ。よく覚えておいてね。」

「実は私もよ。」

「〇〇(タイ語の女性器)は誰でも同じさ。カチアオもそうだよ。誰でも大して違わないさ。でも、人間の心はみんな違う。だから、僕はセックスは好きだけど、本当に好きなのは女の心だ。キミとこうやって抱き合ってる時が一番幸せを感じるんだよ・・・」

こうして疑惑の追及は棚上げになった。お姉さんの持ってきてくれた総菜には見向きもしないで、二人で1か月ぶりの外食にでかけた。夜寝る時も、彼女は僕に抱きついてきた。こんなかわいい子だったら、騙されてみてもいいかなと思った。(つづく)


「そうだよ、男と女は騙し合い、化かし合いだよ」と思う人はポチっとお願いします。


にほんブログ村 海外生活ブログ タイ情報へ
にほんブログ村

タイ・ブログランキング
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

面白いです

私小説を読んでいるようで文才を感じます。
この路線で期待してます。

Re: 面白いです

> この路線で期待してます。

ありがとうございます。
よろしければ10月に書いた「真夏の情事」もご一読ください。

No title

今回が2回目の投稿です。

最初から全部拝見しました。前回285ブレンドウイスキーを愛飲していると投稿した者です。

2日前までバンコクに18日間滞在していて今日本に帰ってきましたがこちらは記録的な寒さでタイが懐かしいです。

さて思わぬ展開になってきましたが、失礼ながら下手な小説より面白いです。私もタイに20年前から通っていますので、タイの娘には散々振り回された口ですから身につまされます。

年齢も同じ位ですから自分が体験している気がします。

失礼ながら他人事と思えずワクワクどきどきして拝見していますので、今後の展開が気になります。

Re: No title

AAAさん、こんにちは。

> さて思わぬ展開になってきましたが、失礼ながら下手な小説より面白いです。私もタイに20年前から通っていますので、タイの娘には散々振り回された口ですから身につまされます。

全部読んでくださるなんて、すごく嬉しいです。僕は単純な人間ですから。

振り回されてるのか、わざと振り回されてる自分を演じてるのか・・・
書いていて自分でもわからなくなる時があります。

15年近く連れ添った22歳年下のタイ人女性にも、最初の数年はいろいろと振り回されました。
どれもこれも神様からの贈り物と考えれば楽しく生きられます。要は相手を大事にするかどうか・・・
それは相手の女性の問題ではなく、自分自身の問題ですね。
(すみません、気分がいいので、ちょっと書き過ぎました。)


プロフィール

Niyom

Author:Niyom
2012年、60歳でチェンマイへ移住。2017年にタイ人の妻を病気で亡くした後、愛人だった若いタイ人女性と再婚、前妻が可愛がっていた小さな犬2匹も一緒に暮らしている。

最新記事
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR